コラム

2025.11.06

福島甲状腺がんにおける放射線影響と過剰診断 どういう場合でも東電の責任は否定できない

1 福島甲状腺がんが放射線影響が原因であろうと,過剰診断であろうと,どういう場合であっても東電の責任はある

福島原発事故後における甲状腺がんの多発は、県民健康調査の甲状腺スクリーニング検査によって発見された微小がんを「早期診断」又は「過剰診断」(ここでは両方含めて「過剰診断」という)したものであるとする見解と,原発事故によって放出された放射線被ばくによるとする見解が対立している.

東京電力は,甲状腺がんが放射線影響によるものだという主張を否定して東京電力には責任が無いということを主張するために,スクリーニングによって発見された微小がんを手術したのは過剰診断であると主張するようであるが,仮に,東京電力のいうとおり過剰診断だとしても東京電力の責任は免れない.つまり,過剰診断であるとする見解に立ったとしても,原発事故を引き起こした東京電力の責任は免れない.

原発事故がなかったならば,スクリーニング検査はなされずしたがって早期診断も過剰診断もなされなかったであろうから,早期診断であっても過剰診断であってもそれによって甲状腺がんの手術をしたのであるから,東電の原発事故と手術との間には,因果関係がある.

2 交互作用という考え方

また被ばくが低線量であったとしても,それが超音波検査というスクリーニング検査によって発見された微小がんがその低線量被ばくの影響を受けて交互作用を起こし,がんの成長が促進され手術適応の大きさになったので手術をしたと疫学的に考えることも可能である.

放射線被ばくをする前から微小がんが存在したとしても,被ばくがなかったとしたら発症したであろう時期よりも,たとえ低線量でも被ばくしたことによって,微小がんの成長が促進されて発症が早められ(促進され)手術したのであるから,その手術と低線量被ばくとの間には因果関係がある.

最高裁判所(昭和50年10月24日ルンバール事件)が,「訴訟上の因果関係の立証は、・・・特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明すること」と判示しているとおり,因果関係における結果とは「特定の結果発生」と言い,上記の場合,低線量被ばくで「成長が促進されて発症が早められ」た微小の手術が結果となるから,仮に,放射線被ばくの前から微小がんが存在していたとしても,低線量被ばくで成長促進された微小がんの手術となったのであるから,因果関係は否定されない.

3 どのような見解にたったとしても甲状腺がんの手術と原発事故とは因果関係は否定されない

つまり,どのような見解にたったとしても甲状腺がんの手術と原発事故とは因果関係があるのであるから,東京電力は手術について責任を免れないのである.

このコラムではこのような観点から論点を取り上げて,東電の責任問題(さらには,県民健康検査によって超音波検査を実施している福島県の責任問題)について,論考を展開している.

4 福島第一原子力発電所事故

2011年3月11日福島第一原子力発電所事故では、水素爆発等により大量の放射性物質が放出された.

ヨウ素131,セシウム134,セシウム137等が放出され,大気中に拡散し、風に乗って広範囲に降下した。

その後,県民健康調査が開始された.

5 県民健康調査

⑴ 基本調査

対象者:平成23年3月11日時点での県内居住者

内容:3月11日以降の行動様式(被ばく線量の推計評価)

⑵ 甲状腺検査

対象者:震災時概ね18歳以下の全県民

内容:甲状腺超音波検査

6 なぜ今甲状腺の検査が必要なのかについて福島県の説明

このような調査が何ゆえに必要なのかについて,第1回「甲状腺検査評価部会」で配布された資料には次のように記載されている.

第1回「甲状腺検査評価部会」議事録 [PDFファイル/468KB]

「なぜ今甲状腺の検査が必要なのか?(2)

•東電福島第⼀原発事故はINES*でチェルノブイリとおなじレベル7であるが環境中に放出された放射能量は7分の1と⾔われている。

•チェルノブイリでも事故後4‐5年から急激に⼩児甲状腺がん発症の増加を⾒たので今すぐは必要ない?

•チェルノブイリ原発事故での内部被ばく線量(100mSv以上で甲状腺がん発症)も考えにくい

•広島・⻑崎原爆のような外部被曝線量(100‐200mSv以上)は現時点では想定されていない・・・

体内に取り込まれた放射性ヨウ素による放射線量が多くなれば、量に⽐例して、⼦供に甲状腺癌が発症することが分っている。

•チェルノブイリと⽐較して福島では放射性ヨウ素による被ばくは少ないと想定され、もしそうであれば甲状腺癌は増加するとは考えにくい。

•けれども当然ながら、⼦供たちに将来甲状腺癌が増加するのではないかという不安がある。

県⺠健康調査「甲状腺検査」が開始

・現時点での甲状腺の状態を把握・今後甲状腺に変化があるかないかを⻑期にわたり観察・もし治療が必要な⼈がいれば適切に対応」

2025年7月25日福島県「県民健康調査」検討委員会の発表によると,

7 何人が悪性(疑い含む)と診断されて,何人が手術をしたか

「 一巡目の検査を受けた人は約30万人でその内116人が悪性ないしその疑いと診断され、手術を受けた102人の内1人が良性、101人ががんと診断されました。 この結果を検討委員会は「甲状腺がんの罹患統計などから推定される有病数に比べて数十倍のオーダーで多い甲状腺がんが発見されている.」

8 当サイトの考え方

福島原発事故後のスクリーニング後の甲状腺がんについて,放射線影響によるものであると主張する立場,放射線影響を否定し上記診断数については過剰診断等によるものであると主張する立場が対立している.
しかし,放射線影響であろうが,過剰診断であろうが,東京電力の責任は否定できないというのが,このサイトの立場である.

https://hoshasendokufire.jp/wp-content/uploads/2025/11/福島甲状腺がんにおける放射線影響と過剰診断-1.pdf

上記URLの記事では,甲状腺がんが放射線影響に基づくものであれば,東京電力の責任があることは当然としても,東京電力自らが主張するように,放射線影響が否定されて仮に過剰診断であるとしても,東京電力の責任は否定されない.

つまり,あらゆる場合を想定しても,東京電力の責任は否定できないということを論証している.

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弁護士 崔 信義(さいのぶよし/崔信義法律事務所)Ph.D.(法学)

□放射線取扱主任者(第1種免状,第2種免状)

□毒物劇物取扱責任者(一般)

□火薬類取扱保安責任者(甲種免状)

□エックス線作業主任者免許

□ガンマ線透過写真撮影作業主任者免許